呉音 wikipedia|無料辞書
一般に、呉音は仏教用語をはじめ歴史の古い言葉に多く使われ、漢音にくらべるとやや古めかしい感じのする傾向がある、とされる。
が、そうとばかりは言えない面もある。
慣用的に呉音ばかり使う字、漢音ばかり使う字も少なくなく、両者は日常的に混用されているものである。
◆総説
◇特徴
呉音は雑多なものを含んでいると考えられ、漢音ほどの整った体系を備えていないが、以下のような特徴がある。
・頭子音の
清濁の対立構造を反映し、清音と濁音を区別している。
・頭子音(
声母)の
鼻音は
漢音が
口音で伝えられたものが多いのに対し、鼻音のまま伝えられている。
・末子音(
韻尾)、とくに
を表す規則が一定していない。呉音でも
-ウ や
-イ が添えられることが多いが、公(ク)のように省略されているものもある。双六(ス
ゴロク)のようにガ行音を充てたものもいくらか見受けられる
[このようなものはとくに固有名詞に多い。相模(サガミ)、相良(サガラ)、愛宕(アタゴ)、鳳至(フゲシ)など。ただし一般名詞には多くは見られない。]。
・ の末子音を持つ入声には -チ が使われている。漢音では -ツ が使われるところである。
・
切韻の音韻体系のうち、
等呼の違いを一等韻にはア段音を使い、二等韻にはエ段音を使うことで区別している。
漢音では両者ともア段音として区別していない。
◇歴史
5, 6世紀に導入され、一般的に中国の
南北朝時代、
南朝の発音が直接、あるいは
朝鮮半島(
百済)経由で伝わったと言われるが、これは「呉」音という名称や
倭の五王が南朝の
宋に
朝貢したことや朝鮮半島から
儒教や
仏教など多くの文物を輸入したという歴史的経緯が根拠となるのであろう。しかし、呉音が本当に南方系統の発音かどうかについて、それを実証できるような史料はない。対馬音や百済音といった別名が示すように古代の日本人は呉音は朝鮮半島からきたと考えていた。
呉音は
仏教用語や
律令用語でよく使われ、漢音導入後も駆逐されず、現在にいたるまで漢音と併用して使われている。なお『
古事記』の
万葉仮名には呉音が使われている。
◇呼称について
呉音しか読音がない時代には名称などなく、後に漢音が導入されて以降につけられた名称である。かなり定着していたことから古くは
和音(やまとごえ・わおん)と呼ばれ、
平安時代中期以降、呉音と呼ばれるようになったが、これらの語は漢音の普及を推進する側からの蔑称であったらしい。中国の唐代、首都長安ではその地域の音を秦音と呼び、それ以外の地域の音、特に長江以南の音を「呉音」とか「呉楚之音」と呼んでいた。帰国した留学生たちが、これにもとづいて長安の音を正統とし、日本に以前から定着していた音を呉音と呼んだものと考えられる。
また
対馬音(つしまごえ・つしまおん)・
百済音(くだらごえ・くだらおん)という名称もあるが、
欽明天皇の時、
百済の尼僧、
法明が
対馬に来て呉音で
維摩経を読んで
仏教を伝えたという伝承によるものである。
◇音のあいまいさについて
常用字でない漢字音について、漢音はその認定が中国の
韻書などの
反切資料を中心に行われるのに対して、呉音は日本に古くから伝わる仏典資料や律令などの歴史的史料が中心になるため、その認定が難しい部分があり、各漢和字典ごとに異なっている場合が多い。
◆例
漢音と呉音の異なる字のうち、ほんの一例を以下に掲載する。対応が把握しやすいように
歴史的仮名遣いを使って表示した。
前述のとおり、呉音にはあいまいな部分もあり、以下の例も、これが絶対というものではない。
“分類”は厳密さに欠けるものではあるが、参考までに添えた。
「漢音 / 呉音」の形で示している。
“*”は「いろいろ」というほどの意味。
◇子音の異なる例
◇母音の異なる例
子音も同時に異なるものも含む。